沈没船調査を行う水中ロボット「ROV」の役割

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沈没船調査を行う水中ロボット「ROV」の役割

島国・日本に暮らす日本人にとって、海はとても身近なもの。

にもかかわらず海のことをよく知らない、そう感じることはないでしょうか。

海の謎のひとつに、海底に沈んだ船「沈没船」があげられます。

実は日本近海だけでもたくさんの沈没船がありますが、さまざまな要因により十分な調査がなされているとは言えないのが現状です。

しかし近年では水中ロボット(ROV)の技術進歩により、少しずつ海底の謎にメスが入っています。

当記事では、沈没船調査における水中ロボット(ROV)のさまざまな情報をお伝えします。

沈没船調査における水中ロボット(ROV)の役割

沈没船調査における水中ロボット(ROV)の役割

水中ロボット(ROV)とは、遠隔操作で動く水中探査機のことを指します。

日本では「遠隔操作無人探査機」と呼ばれることもありますが、各メーカーによって名称が異なることから、諸外国でも用いられる「ROV」という呼び名が一般的です。

実は、日本近海だけでも2,000隻以上もの沈没船があると考えられています。

こうした沈没船の発見や調査、また海底探索などを、ROVを使って行います。

水中考古学の分野では、沈没船や海底に沈んだ人工物から歴史をひもとき、研究を行います。

ROVはこうした学問分野で活用されるほか、事故により沈んだ船を調査し、被害の状況を明らかにするのにも使われます。

ROVを使用するメリット

ROVを使用するメリット

ROVを使用した海底調査に、どんなメリットがあるのかをまとめました。

より危険性の高い場所を探索できる

ダイバーが潜るには危険な水域であっても、ROVなら探索できます。

これにより、さらに詳細な調査が可能になります。

より狭い場所を探索できる

例えば沈没船を探索する場合、ダイバーが入れない場所でも小さなROVなら入り込んで調査、撮影が可能です。

コストが削減できる

ダイバーが実際に潜水する場合に比べて、ROVを使うと時間も労力も費用も削減できます。

莫大なコストがかかることも、海底調査が進まない要因のひとつでした。

ROVの進歩により、そうした課題を徐々にクリアできるようになっています。

過去に行われたROVによる沈没船調査の事例

世界各国でROVによる沈没船の調査が行われています。

ここでは、実際の事例を紹介します。

6,000個のツボを積んだ古代ローマの沈没船

2019年12月に、地中海を航行中に沈没したとみられるローマ帝国時代(約2,000年前)の沈没船が地中海東部で発見されました。

音波探知機を使用して発見されたその沈没船は全長約35メートル、地中海東部で見つかった沈没船としては、過去最大です。

水深約60メートルの海底に沈んでいながら、積み荷の状態は非常に良好。

ROVが撮影した映像から、6,000個ものツボを積んでいることもわかりました。

ジョン・フランクリン卿の2隻の艦隊

2014年と2016年に相次いで見つかったのは、1845年に大西洋と太平洋を結ぶ「北西航路」を開拓すべく出発した、ジョン・フランクリン卿が指揮する探検隊。

最新鋭の軍艦、テラー号とエレバス号です。

カナダの考古学チームが沈没船の窓から小型のROVを船内に入れ、部屋と区画を合わせて20箇所もの場所を調べることに成功しました。

ROVが映し出したのは、棚にきれいに収納された食器類、ベッドや机など。

船内の大部分が堆積物に覆われていたため、保存状態も良好でした。

「ナホトカ」の主船体の潜水調査

1997年、島根県隠岐島の北北東約100kmの海域で、ロシアのタンカー「ナホトカ」による重油流出事故が発生。

主船体部は推定約9,920KLもの重油を積んだまま沈没しました。

この調査のため、当時海洋科学技術センターが所有・運用していたROV「ドルフィン-3K」が潜水を行いました。

主な目的は、沈没船の船名の確認、油の漏出状況の確認、船体の状況把握の3つです。

このようにROVは、海難事故の原因を突き止めることにも活用されています。

ROVから得られた情報は、海事の安全向上にも役立っています。

ヒト型ロボットによる探索や鎮魂まで……今後、ROVに期待されること

ヒト型ロボットによる探索や鎮魂まで……今後、ROVに期待されること

2016年、スタンフォード大学が開発したヒト型の深海探索ロボット「OceanOne」が、深海に眠るルイ14世の沈没船から人工物を持ち帰りました。

「OceanOne」の特徴は、なんといってもその姿かたち。

人間の上半身のような姿をしていて、伸縮自在なロボットアームや両目がついています。

操作は一般的なROV同様に地上から遠隔で行いますが、アームを使って「物をつかむ」などの人間的な動きが可能。

そのうえ触覚を備えており、操作者がその感覚を体験できるようです。

この技術を応用すれば、さらなる水中探索のほかにも海底ケーブルなどのメンテナンス、海底火山の調査など、より広い用途でROVが活用できるようになります。

また日本では、2018年に一般社団法人ラ・プロンジェ深海工学会の浦環氏がROVを用いて東シナ海に沈む客船「大洋丸」の調査をすべく、クラウドファンディングを行いました。

「大洋丸」は第二次世界大戦中に沈没、多くの人が犠牲になりました。

浦氏は海上保安庁海洋情報部のデータから、「大洋丸」が沈んだとされている位置の周囲に5隻の沈没船があることを突き止めました。

そこでROVによる調査で沈没船の船名を確認し、位置と現状を明らかにしようと調査に乗り出したのです。

これは歴史研究のうえでも、鎮魂のためにも大切なことだと言えるでしょう。

このように近年めざましく技術進歩を遂げているROVにより、沈没船の調査をはじめ、さまざまな海事に対しての調査が進んでいます。

水中考古学の観点でも、それ以外でも、今後ますますROVに対する期待は高まっていくでしょう。

参考記事


https://jp.techcrunch.com/2021/01/13/2021-01-11-saildrone-launches-a-72-foot-autonomous-seabed-mapping-boat/
https://mbari-staging2.frb.io/2018/story/rov-pilot-helps-discover-sunken-ship-that-he-sailed
https://www.asme.org/topics-resources/content/7-new-technologies-to-find-sunken-ships
http://guriland.jp/rov1.htm
https://www.asahi.com/articles/ASL944VDDL94ULBJ00K.html
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  • この記事を書いた人
石田一浩

石田一浩(Ishida Kazuhiro)

株式会社チックの代表として、水中ドローンや無人船、ブルーボートの開発・販売に注力。海洋調査や水中探査の現場で、水中ドローンを活用した豊富な調査経験を持ち、その実績を基に、専門家や企業に信頼される高性能な製品を提供しています。

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