様々な水中ドローン(ROV)が販売・運用されていますが、ほとんどが無線ではなく有線で運用されています。弊社が取り扱うBlueROV2もその一つ。
簡易的な水中操作であれば1人で運用可能な場合もありますが、実際の業務となると、ほとんどがオペレーターと補助作業員の複数名のチームで運用するようになります。
ここでは、水中ドローン(BlueROV2)を実際に現場で運用する上で、補助作業員の作業や業務内容について、主に海上の現場での経験をもとに解説します。
補助作業員の役割
主な役割としては、機体(水中ドローン)の管理や、機体を水面まで降ろして着水〜回収、テザーケーブル捌きなどを担当します。ケーブル介助者やテザー係など言い方は各社あると思いますが、ここでは補助作業員とします。
オペレーターが遠隔操縦する際に、テザーケーブルが構造物に絡まったり必要以上に出過ぎたりしないよう、指示のもと引っ張ったり緩めたりする操作をします。オペレーターと意思の疎通がとても重要になる作業です。
作業例
[su_list icon="icon: check" icon_color="#b10e1d" indent="5"]
- 機体、テザーケーブルの管理や準備
- バッテリーの装着と交換、管理
- 機体を着水・回収する作業
- 潜水箇所までの目視による誘導
- テザーケーブルが水中の障害物に絡まないように操作
- 周辺の状況の監視、報告
- 不測の事態が起きた際の緊急対応
[/su_list]
など
事前準備
1. 調査や点検作業の計画を確認
事前に作業内容を確認しましょう。具体的な例を出してみます。
- いつ … 時期や期間
- どこで … 海、川、湖もしくはインフラ設備の中なのか、船上なのか岸壁なのか
- 誰が … 依頼者、操縦者や補助作業員の人数の確認
- 何を … 調査や点検作業の内容の確認
- なぜ … 調査や点検作業場所の状況の確認(破損しているのか・新設なのか)
- どのように … 調査や点検作業の方法や手段や予算、報告書や成果物の確認
2. 訓練・教育等への参加
建設現場では、新しく現場に入る人向けに新規入場者教育を実施しています。
また、現場によっては特別な訓練を受講しなければいけない等の条件がある場合があるので、必要に応じて事前に訓練や教育を受講する必要があります。
例)新規入場者教育(各現場ごと)、海洋作業者向け洋上サバイバル訓練 等
3. 必要な機材、物品類の準備
機体はもちろん、テザーインターフェースやケーブル類、PCやモニター等、必要に応じた数と予備を揃える必要があります。(それぞれ2セットあった方が安心です)
また、工具等の整備道具類も必要に応じた内容で準備します。
現場近くですぐに調達できるものであれば良いのですが、調達に時間がかかるものは事前に手配しておきましょう。
調査や作業の内容や計画によって、機体のカスタムをする場合もあります。
あると便利なグッズ
- 無線機(同時通話)
- バスタオル→機体を日差しや傷などから保護する
- インシュロック(サイズ別に3種類程度)
- ジップロック(防水処置用)
- テープ類(養生テープ・ビニールテープ 等)
- 紙ウェス
4. 機体の接続・操作方法の確認
事前に基本的な機体とテザーケーブル、バッテリーの接続方法を確認して把握しておきます。
より正確な機体誘導や操縦者との意思疎通、不測事態への速やかな対応を図る為に、機体の基本操作やQGrandControlの操作なども確認しておいた方が良いでしょう。
5. 個人用装備品の準備
現場では作業着や安全靴、長靴は必須です。場所によっては帯電防止の作業着を求められることもあります。
また、季節や天候に合わせた服装や装備品が必要になってきます。特に夏場の熱中症には注意が必要なので、必要に応じて準備しましょう。
装備品の例
- ヘルメット
- ライフジャケット
- 作業着…季節に合わせてたもの。ストレッチ素材が動きやすい
- 肌着…季節に合わせてたもの
- 安全靴
- 安全長靴
- 手袋…作業によって材質を使い分ける(ゴムや皮等)
- レインウェア … 蒸れにくいものが良い
- サングラス … 偏光レンズが望ましい
- 空調服 … 夏季は必須。バッテリータイプが望ましい
- ハーネス
- カラビナ … 手袋や無線機等の落下や紛失防止等に有効
- 日焼け防止ヘルメットインナー … 顔まわりや首の日焼け予防に効果的
- レザーマン等のマルチツール … ナイフ・ペンチ・ハサミが付いているものが便利
- 双眼鏡
- 水筒
- クーラーボックス
- 日焼け止め
▼現場での準備
1. 実際の作業場所の確認
可能であれば、事前に調査や点検作業を行う実際の場所の確認を行います。
場所によっては、機体を水面に下ろす場所が操縦者からは見えない場合(操縦者のみ屋内の場合等)や距離が離れている場合もありますので、作業手順や連絡手段等の打合せを行います。
確認内容の例)
- 操縦者の場所と周囲
- 機体を水面に降ろす場所とその周囲
- 操縦者までの距離とその周辺の障害物の有無
- テザーケーブルの養生や保護、据え置きの有無
- 電源(充電用)
- 機材の片付け場所
2. 機材の設営・動作テスト
作業場所での確認が終わったら、機材の設営・準備・動作テスト等を行います。
例)
- リールからテザーケーブルを外して巻き癖、遊び、捻りを整える
- テザーケーブルをいくつかの長さに分けて巻いておく(必要に応じて解いて送り出せる ように)
- 屋外に設置するテザーケーブルの養生と補強(耐候性テープ、ロープ)
- 常用が予想される長さのテザーケーブルをある程度カゴに入れてすぐに送り出せるよう にする。
- パソコン、コントローラー、テザーインターフェース、機体の接続
- 調査や点検作業を行う対象までの誘導方法の確認とシミュレーション
- 機体の動作テスト
- 機材の片付け場所の設営
無線のやり取り
操縦者と補助者が離れて作業する場合、より正確な機体の誘導や操縦者との意思疎通、不測事態への速やかな対応を図る為に無線でのやり取りは必須になってきます。
ポイントは、簡潔にわかりやすく、はっきりと聞こえやすく、呼びかけに速やかに返答・復唱すると良いでしょう。
事前にチーム内でやり取りの方法を打合せしておきましょう。
例)
- 操縦者「○○さんどうぞ」
- 補助者「どうぞ」
- 操縦者「 ※要件説明 △〇△〇」
- 補助者「△〇△〇了解」
無線機は同時通話タイプが便利ですね。
作業及び運用方法
実際の作業を始めるにあたり、おおよそ時系列に合わせた流れで解説していきます。
1.機体の真空テスト
水密ポンプのゲージは0.5inHg程度下がるのは許容範囲。メーカー1inHgと公表しています。ただ、まったく下がらないのが理想です。
2.無線・個人用装備品の準備と装着
無線の通信およびチャンネルチェック。チャンネルは事前に現場から許可をもらうのが望ましいです。
3.テザーケーブルの準備・機体への取り付け
水中コネクター部に汚れがないかを確認し、必要に応じてグリスアップ。確実にコネクターを取り付けないと映像の乱れの原因になります。
4.バッテリーの取り付け
予めチェッカーで残量を確認し、充電済みのバッテリーを装着します。エンドキャップを閉める際は付着物がないか慎重に確認します。
5.ベントプラグの取り付け
ベントプラグは確実に閉めます。取付忘れは絶対にあってはいけません。
6.入水前の最終チェック【重要】
テザーへの負荷防止用のカラビナのかけ忘れや、ベントプラグの付け忘れ等が無いように、入水の直前に再度「テザー良し!」「ベント良し!」と声に出して、確認すると良いでしょう。
7.水面や周囲の状況の報告
海であれば潮の流れ、うねり、波高などを報告すると良いでしょう。その他障害物等の運行に影響がありそうな事象について操縦者に報告します。
8.機体の降下
機体を水面まで降ろす際に、テザーケーブルにとても負荷がかかります。また、船体や岸壁などに機体が接触したりして、入水前に故障する恐れがあるので、ゆっくりと慎重に機体を水面まで降ろしていきます。
9.着水後の機体のバランスチェック
機体が水平に浮いているかどうかをチェックして操縦者に報告します。
10.機体の動作チェック(入水後)
操縦者の操縦通りに機体が動作しているかチェックして操縦者に報告します。
11.機体の誘導
状況によって、機体が潜行を開始する場所の付近まで距離がある場合などは、補助者が機体を誘導します。予め方向指示の方法は打合せしておきましょう。
例)言語が共通していれば何でもよい。
前進 … エレベーター前、前進
交代 … エレベーター後ろ、後退、バック
右移動 … エルロン右、右移動
左移動 … エルロン左、左移動
右旋回 … ラダー右、右旋回
左旋回 … ラダー左、左旋回
斜め移動(前) … 前進しながら右(左)、右(左)斜め前に移動
斜め移動(後) … バックしながら右(左)、右(左)斜め後ろに移動
12.テザーケーブルの取り回し方
機体の動作によって、テザーケーブルの取り回し方は変わってきます。基本的に作業中は少しだけ張っている程度にします。機体の動きに支障がでないような張り具合や、テザーケーブルが出すぎて障害物等に絡まない程度に出すなど、操縦者とコミュニケーションを取りながら調整していきましょう。
また、テザーケーブルの状況も報告するようにしましょう。(潮で流されている、そのまま戻ってくると絡まる等)巻き戻すテザーケーブルは、絡まないようにカゴの中に整理整頓して戻します。
13.潜水時間の声かけ
1回の作業内容や時間によって、バッテリー交換のタイミングを調整します。操縦者は操縦に集中してしまいがちになるので、10分おきに報告するなど、バッテリー切れで操縦不能にならないように注意しましょう。
14.機体の回収
操縦者からバッテリー交換の指示があったら、基本的には安全に機体を回収できる位置まで機体を誘導します。(潮の流れ等の影響がある為)
安全な位置まで来たら、機体の体勢を整えて水面から引き上げます。その際にもテザーケーブルに負荷がかかったり、機体が付近の障害物に接触したりしますので、ゆっくり慎重に引き上げた方が良いでしょう。
15.バッテリー交換
ベントキャップを緩めてエンドキャップを取り外します。ベントキャップがきつくなっている場合は、タオルなどを使って回すと力が入り緩みやすくなります。
バッテリーを取り扱う際は、濡れた手で行うとショートの原因にもなりますので、タオルなどで手を拭いてから行いましょう。
また、エンドキャップを取り外したり、付けたりする際に、ケーブルの接続部分のポッティングが割れて水漏れが発生する場合もあります。注意して慎重に行いましょう。
[su_box title="※注意事項" box_color="#FAFAF5" title_color="#c10e0e" radius="8"]
- ポッティングが割れてくるので、エンドキャップとケーブル付近の取り扱いは要注意。
- エンクロージャーとエンドキャップの間に隙間が開かないように閉める。
- 使用していくうちにエンドキャップのOリングが劣化してきて緩くなり、機体を運ぶ際にバッテリーが落下する場合があります。その際は、oリングを交換するか簡易的に養生テープ等でエンドキャップを固定する処置を行います。
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機材の手入れ・管理
業務終了後や日々の現場での簡易的なメンテナンスの例をいくつかご紹介します。
1.コネクタの洗浄保護
業務終了後、コネクタの部分はクリーナーで洗い、シリコングリースを軽く塗っておく。(絶縁になってしまうので塗りすぎ注意)
2.テザーケーブルの洗浄
汚れ、海水等は、真水で洗い流しておく。
3.機体の洗浄
機体が全て水に浸かる入れ物(角形のタライや浴槽)に入れて、機体に付着した汚れや石や砂などを落とします。可能であれば一晩程度、真水に浸けておくと良いでしょう。
4.ドームキャップの保護
移動中などにドームキャップを傷つけないように、紙ウェス等で簡易的にカバーすると良いでしょう。
5.ネジゆるみ
定期的にネジの増し締めを行います。ぐらつきが無いか日頃から確認します。
6.バッテリーの管理
日頃の充放電や使用回数については、リストを作成して管理した方が良いでしょう。また、落下や故障などがあった場合はその旨も記録します。
7.現場での機材や道具類の養生と保管
数日続く現場では、機材や道具類を現場に置いていく場合もあります。その際は、盗難防止の処置や防水処置や養生を行い、迷惑にならないよう整理整頓して保管するようにしましょう。
補助作業員の仕事は非常に重要
水中ドローン(ROV)を使った業務では機体の性能やオペレーターに注目が行きがちですが、実は、テザーケーブルを担当している補助作業員は無くてはならない重要な業務なのです。
テザーケーブル係は、機体を理解し、操縦を理解している方が適任です。オペレーターを交代できる体制が理想的かもしれません。
誰か暇そうな人に頼もうと思ったら大きな間違いです。
何も分からない人にテザー管理を任せると、必要以上にテザーケーブルを出し過ぎたり、引っ張り過ぎて機体の動きを止めてしまったりと業務に支障がでてきます。監視員も兼ねている場合は、船の向きを指示しつつ、テザー管理もしなければならないとても重要である重労働な業務なのです。
オペレーターは、補助作業員の仕事もよく理解し、お互いに機体がどのような動きをしているのか情報共有しなら業務を進めることが重要です。
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